放射線治療医 海野しおんの雑記帳

とある放射線治療医の雑記帳です。

【腎細胞がん】淡明細胞型腎細胞がん(ccRCC)のオリゴ転移に対する転移指向性治療(MDT)単独治療【第II相試験】

Metastasis-directed radiotherapy without systemic therapy for oligometastatic clear-cell renal-cell carcinoma: primary efficacy analysis of a single-arm, single-centre, phase 2 trial.
Tang C, Sherry AD, Seo A, et al. Lancet Oncol. 2025 Sep 4:S1470-2045(25)00380-8. doi: 10.1016/S1470-2045(25)00380-8. Epub ahead of print. PMID: 40915303.

【概要】
・本第II相試験では、淡明細胞型腎細胞がん(ccRCC)のオリゴ転移に対して、転移指向性治療(MDT)のみで全身療法回避生存期間(中央値)34ヶ月を達成し、成功閾値(24ヶ月)を上回った
・毒性は概して軽微(Grade 3以上:7%)で、再発形式は新規病変の出現が主体で、局所制御は良好
・ベースライン/3ヶ月後の循環腫瘍DNA(ctDNA)は全身療法導入の早期化と独立に関連し、病変数・既治療数と併せた層別化に有用
・選択された患者では、転移指向性治療(MDT)戦略が全身療法の回避・遅延の実践的な選択肢となりうる

【背景と目的】
淡明細胞型腎細胞がん(ccRCC)のオリゴ転移(1-5病変)を有する患者に対する、全身療法を用いず、転移指向性治療(MDT: metastasis-directed therapy)だけで病勢制御と全身療法回避が可能かを検証した。

【対象と方法】
単群・単施設・第II相試験
・2018年7月~2023年5月に121例を登録(ITT)し、120例に対して放射線治療を実施(PP)
・追跡期間中央値:36.3ヶ月
・介入:
 ・全病変に対して転移指向性治療(MDT)を実施
 ・MDTは体幹部定位放射線治療(SBRT)が原則(1回線量≧7Gy/回、5分割以下)
 ・病勢進行の病変数が限られる(3病変以下の新規病変/増悪病変)時には追加のMDTを許容した
 ・多発進行や毒性、局所増悪などを認めた場合には全身療法を開始
・評価項目:
 ・主要評価項目:無増悪生存(PFS)と全身療法回避生存期間(STFS)
  ・全身療法回避生存期間(中央値)24ヶ月以上を成功閾値に事前に規定した

【結果】
・全例、淡明細胞型腎細胞がん(ccRCC)、腎臓摘出術の既往のある患者が98%
・IMDC分類:低リスク 52%、中リスク 47%、高リスク 1%
・全身療法の既往のある患者が30%、ECOG PS 0-2
・転移指向性治療(MDT):
 ・1病変:59%、2病変:31%、3-5病変:10%
 ・主な線量分割:40-50Gy/4回
 ・総腫瘍体積中央値:5.7 cm3
全身療法回避生存期間(STFS)中央値:34.0ヶ月、1年STFS:88%
 →事前規定の成功閾値を達成
無増悪生存期間(PFS)中央値:17.7ヶ月、1年PFS:68%
・全生存(OS):1年OS:97%、3年OS:87%、中央全生存期間:未到達
・進行形式:
 ・初回進行の主因は新規病変の出現(57%)
 ・照射野内の局所進行:7%
 ・新病変出現までの期間(中央値):22.7ヶ月
・全身療法の導入:
 ・最終的に51例(42%)に対して全身療法が導入された
・安全性:
 ・治療関連有害事象:Grade 2以上:21%、Grade 3以上:7%、Grade 4は1例(膵臓への照射後の高血糖)、治療関連死の発生なし
・循環腫瘍DNA(ctDNA)の探索的解析:
 ・患者固有高感度パネルで測定、ベースライン陽性 60%→3ヶ月後 52%
循環腫瘍DNA(ctDNA)の予後情報:
 ・ベースラインで陽性の患者では、全身療法回避生存期間(STFS)が短く(HR 2.75, p=0.0064)、3ヶ月時点陽性ではさらに不良(HR 4.42, p<0.0001)
・臨床因子:
 ・登録時の病変数(HR 1.53/病変数)と既往の全身療法のライン数(HR 1.50/ライン)が独立して全身療法回避生存(STFS)と関連し、循環腫瘍DNAで調整しても有意な因子
・他の研究との関連性:
 ・監視のみの前向き試験(Rini 2016)の全身療法非施行期間(中央値)14.9ヶ月、転移指向性治療(MDT)+短期間の免疫チェックポイント阻害薬(RAPPORT)の無増悪生存期間(中央値)15.6ヶ月と比較して、今回の試験は全身療法回避生存期間、無増悪生存期間で良好
・臨床的意義:
 ・適切な患者選択を行う場合には、転移指向性治療(MDT)を繰り返すことで全身療法の開始を大きく遅らせつつ、病勢制御・生存を維持し、毒性や通院負担・コストを低減可能
・今後の課題:
 ・循環腫瘍DNAと臨床因子の統合リスク層別の前向き試験(SOAR、ASTROsなど)、KIM-1やCAIX-PETなど他のバイオマーカーとの併用評価が課題

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