放射線治療医 海野しおんの雑記帳

とある放射線治療医の雑記帳です。

【頭頸部がん】局所進行頭頸部扁平上皮がんに対する化学放射線療法:キセビナパント(xevinapant) vs プラセボ【TrilynX:第III相試験】

Xevinapant or Placebo Plus Platinum-Based Chemoradiotherapy in Unresected Locally Advanced Squamous Cell Carcinoma of the Head and Neck (TrilynX): A Randomized, Phase III Study.
Bourhis J, Licitra LF, Burtness B, et al. J Clin Oncol. 2025 Sep 3:JCO2500272. doi: 10.1200/JCO-25-00272. Epub ahead of print. PMID: 40902136.

【概要】
・頭頸部扁平上皮がんに対する化学放射線療法へのキセビナパントの追加による無イベント生存の改善効果は認められず、全生存も不良は不良な傾向(HR 1.39)
・有害事象の増加により化学療法や照射強度が低下し、遠隔転移の発生も増加
・第II相試験での良好な成績は第III相試験では再現されず、機序としては免疫抑制的な影響が示唆された

【目的/対象と方法】
・TrilynX試験:無作為化二重盲検第III相試験
・未切除の局所進行頭頸部扁平上皮がん(p16陰性中咽頭がん、下咽頭がん、喉頭がん、AJCC/UICC 第8版 III-IV期)に対し、シスプラチン併用強度変調放射線治療(IMRT 70 Gy)にキセビナパント(xevinapant)(IAP阻害)を上乗せする有効性と安全性を検証した
・主要評価項目:独立盲検中央判定(BIRC)による無イベント生存(EFS)
・2020年9月20日-2023年2月27日に730例を1:1で割り付け(キセビナパント群:364例、プラセボ群:366例)
・キセビナパントは21日サイクルでday1-14に200 mg/日、初回3サイクルは化学放射線療法と同時併用し、その後合計6サイクル投与を予定した
・追跡期間中央値:18ヶ月(データカットオフ:2024年4月8日)

【結果】
・無イベント生存(主要評価項目):
 ・プラセボ群と比較して、キセビナパント群で不良(中央値:19.4ヶ月 vs 33.1ヶ月, HR 1.33 [95% CI: 1.05-1.6])
・事前に設定した有効性境界を満たさず、層別片側検定では不利な結果
・副次評価項目もキセビナパント群で不良な傾向
 ・無増悪生存期間(中央値):26.8ヶ月 vs 33.1ヶ月(HR 1.24, 95% CI: 0.97-1.57)
 ・全生存期間中央値は未到達であるが、キセビナパント群で死亡リスク上昇(HR 1.39, 95% CI: 1.04-1.86)
・局所領域制御(LRC)は両群間で有意差なし
・遠隔転移の発生率はキセビナパント群で高く、12ヶ月完全奏効率も低かった(53% vs 61%)
・安全性:一般にキセビナパント群で有害事象が増加
 ・Grade 3以上の有害事象発生率:88% vs 80%
 ・重篤な治療関連有害事象:53% vs 36%
 ・治療関連有害事象による死亡:6% vs 4%
  ・貧血、好中球減少、肺炎などの増加がみられた
 ・有害事象により治療中断・減量・中止が早期かつ高頻度に発生した
  →シスプラチン累積投与量は200 mg/m2 vs 275 mg/m2でキセビナパント群で低下、70Gy未満や50Gy以下の照射も相対的に増加(化学放射線療法の強度低下)

【考察】
・治療強度の低下が転帰悪化の一因と考えられるが、探索的解析のみでは主因とは断定できず
・第II相試験では18ヶ月局所領域制御の改善、3年無増悪生存率の改善、5年死亡リスクの半減が報告されていたが、本試験では再現されなかった
・患者背景(部位や病期、年齢や全身状態)の相違、放射線治療の前向き管理の導入、キセビナパントの施行サイクル数(6 vs 3)の違いがあるが、明確な説明とはならなかった
・機序の仮説:キセビナパントはアポトーシスを促進し、化学放射線療法の免疫原性細胞死(ネクロプトーシス/パイロプトーシス)誘導を相対的に減弱させること、また感染(特に肺炎)増加と併せ、抗腫瘍免疫抑制からの遠隔制御の悪化につながった可能性がある
・試験途中で所定の無益/不利益シグナルを超え、2024年6月24日に試験は停止あれ、頭頸部がんにおけるキセビナパントの開発中止は妥当と判断
・対象はp16陰性中咽頭がんを含んでおり、p16陽性中咽頭がんや口腔がんは除外された
・地域やT因子/N因子などで層別化、BIRC/治験医判定の整合は概ね良好
・治療介入は強度変調放射線治療(70 Gy/35回)とシスプラチン 100 mg/m2の3週毎投与(最大3回)で、シスプラチンの毒性によってはカルボプラチンへの切り替えを許容した。キセビナパントはday 1-14に内服した。
・キセビナパント群で治療完遂率が低下し、有害事象による中止や減量、一時中断が多く認められ、以後の抗がん剤治療開始もキセビナパント群でやや増加した

【結論】
・未切除の局所進行頭頸部扁平上皮がんに対する標準的な化学放射線療法にキセビナパントを上乗せしても無イベント生存の改善は得られず、むしろ生存成績への不利益と毒性の増加が認められた

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