放射線治療医 海野しおんの雑記帳

とある放射線治療医の雑記帳です。

【前立腺がん】中間リスク/高リスク前立腺がんに対する体幹部定位放射線治療(SBRT) vs 寡分割照射(HFRT):早期の治療関連毒性【PACE-C】

Intensity-modulated moderately hypofractionated radiotherapy versus stereotactic body radiotherapy for prostate cancer (PACE-C): early toxicity results from a randomised, open-label, phase 3, non-inferiority trial. 
Tree AC, Hinder V, Chan A,et al. Lancet Oncol. 2025 Jul;26(7):936-947. DOI: 10.1016/S1470-2045(25)00205-0. Epub 2025 Jun 12. PMID: 40517778.

【背景と目的】
前立腺がんに対する中等度寡分割照射(MHRT)は標準治療として確立しており、体幹部定位放射線治療(SBRT)も有効性が示されている。
・これまでPACE-B試験では低リスクの前立腺がん患者を対象として、体幹部定位放射線治療(SBRT)が中等度寡分割照射(MHRT)に対して非劣性であることが示されたが、中リスク~高リスク患者における毒性に関するランダム化データは不足していた。
本研究(PACE-C試験)は、中リスク~高リスクの前立腺がん患者における中等度寡分割照射(MFRT)と体幹部定位放射線治療(SBRT)の早期毒性の比較結果を報告する。

【対象と方法】
・第3相ランダム化非劣性試験
・実施施設:英国、アイルランドニュージーランドの53カ国
・対象:
 ・18歳以上
 ・WHO PS 0-2
 ・組織学的に確認された前立腺がん(T1-T3a, Gleason score 7-8, PSA 10-30 ng/mL)
 ・中間リスクまたは高リスク
・介入:
 ・中等度寡分割照射群(MHRT):60 Gy/20回(4週間)
 ・体幹部定位放射線治療(SBRT):36.25 Gy/5回(1~2週間、隔日または連日)
  ・前立腺+精嚢近位 1 cmに対してはマージンを加えず40 Gy/5回
 ・全例で放射線治療開始前にアンドロゲン除去療法(ADT)を6ヶ月間施行
・評価項目:
 ・主要評価項目:放射線治療12週以内の消化管毒性および泌尿器毒性(RTOG Grade 2以上)
 ・副次評価項目:CTCAE Grade 2以上の消化管および泌尿器毒性、患者報告アウトカム(PRO):EPIC-26、IPSS、Vaizeyスコア、IIEF-5

【結果】
・登録患者数:1,208例(寡分割照射 601例、定位放射線治療 607例)
・人種構成:白人 95%、黒人 2%、アジア系 1%、中国系 1%
RTOG Grade 2以上の毒性
 ・泌尿器毒性:寡分割照射 27%、定位放射線治療 28%
  ・絶対差:0.5%(p=0.89)
 ・消化管毒性:寡分割照射 11%、定位放射線治療 13%
  ・絶対差:1.4%(p=0.53)
CTCAE Grade 2以上の毒性
 ・泌尿器毒性:寡分割照射 28%、定位放射線治療 34%(p=0.050)
 ・消化管毒性:寡分割照射 10%、定位放射線治療 17%(p=0.0011)
重篤な毒性(Grade 3以上)
 ・泌尿器、消化管とも1%未満で低頻度
患者報告アウトカム(PRO)
 ・定位放射線治療群(SBRT)で、治療後4週時点で一時的な排尿障害および腸機能障害がやや多い傾向がみられたが、12週時点で回復
 ・性機能、ホルモン関連QoLの変化は両群で同程度

【考察】
体幹部定位放射線治療(SBRT)は短期間で治療が完了するため、患者利便性や医療リソースの節約に寄与する可能性がある
・定位放射線治療(SBRT)では消化管毒性の一過性増加が認められたが、12週時点で差は消失
・長期の毒性や腫瘍制御効果のデータはまだ不十分で、標準治療としての位置づけには慎重さが必要

【結論】
PACE-C試験の初期結果では、体幹部定位放射線治療(SBRT)と中等度寡分割照射(MHRT)の間で早期の毒性(RTOG基準)に有意差を認めず
CTCAE基準では定位放射線治療群で消化管毒性が一時的に不良であったが、12週後には回復
・今後、長期的な有効性と毒性の追跡が定位放射線治療(SBRT)を標準治療とするために必要

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